企画展

「ムンク展」 暗い、陰鬱、絶望、叫び、という偏ったイメージを変えたおすすめ企画展のレビュー

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ムンクと言えば「叫び」

 

強烈な色彩と構図によって表現されるこの絵画はあまりにも有名すぎて、ムンクのイメージを少々誤解させているように思います

絶望や狂気に満ちた作品も確かに少なくないのですが、晩年などは明るい色彩を用いた作品をよく制作していました

 

今回の企画展は、「叫び」を前面に押し出してPRしています。

ですが、全体を通してみると、人生における様々な出来事によって画業が進化していくような、ひとりの画家の変遷が伝わってくる展示構成になっています。

 

ムンクというひとりの画家を多面的に見せており、非常に興味深くておすすめできる企画展に仕上がっています。

 

今回は、そんなムンク展の感想を記事にしたいと思います。

 

なお、行こうか迷っている方向けに書いた記事もあります。

もし迷っているならこちらの方が手っ取り早いかもしれませんので、冒頭でお伝えしておきます。

 

 

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展示構成

1 ムンクとは誰か

 

ムンクは自画像を数多く描きました。

その数なんと約80点!

 

1902年にカメラを手に入れると、自撮りもしました。

 

この章ではムンクの描いた自画像が展示されています。

 

順番通りに見ていくと1番最初に目に入るのが、なんとも陰鬱な自画像です

 

 

黒い空間にぽっかりと、白いムンクの頭部が浮き出ていて、画面下には腕の骨が描かれているのです。

 

2点目もまた、不気味な自画像。

 

 

今度は裸体をさらしていますが、黒と赤の背景が毒々しく、顔の表情もおぼろげです。

 

こういった自画像が、写真の作品も含めて並べられていると、どうもこちらの気分もどんよりしてきます。

 

2 家族 ―死と喪失

この章ではムンク家の人たちの肖像画から始まりますが、その中には、母の妹であるカーレン・ビョルスタのものも含まれています。

 

 

ムンクの母親は、若くして亡くなりました。

母親代わりにムンク家の人々の生活を支えたのがこのカーレン・ビョルスタです。

 

一見やさしげに見えるビョルスタですが、視線はかなり強く描かれています。

人生の厳しさを奥に隠しながら、やさしい母親の役割を全うした人物として表現されているように思えました。

 

 

ムンクは幼くして母と姉を亡くしましたが、その影響は初期のムンク作品に強く現れています

 

その代表作といえるのが「病める子」という作品です。

 

 

病に侵された少女の、人生を諦めたようなもの静かな表情。

見ているのが辛くなるほど悲しくなってしまいます

 

ムンクの「病める子」にはバリエーションがあります。

中には母親が描かれている作品も。

 

 

うなだれる母親の姿が痛ましくて、とうてい長くは見ていられません。

 

 

ムンク展のこの章では、ムンクの家族の他に、友人の肖像画もあるのですが、だいたいが暗い雰囲気を醸しています

 

その中で、「ブローチ、エヴァ・ムドッチ」という作品は少々異なっています。

 

 

モデルのエヴァ・ムドッチはバイオリニストで、ムンクは彼女と出会いファンになります

挑戦的かつ優美なまなざしが印象的で、ムンクが彼女の存在を好意的に受け止めていたことが素直に分かる作品になっています。

 

3 夏の夜―孤独と憂鬱

今までは絶望感に満ちた作品がほとんどでしたが、このあたりから作風が少し変わります。

 

穏やかで幻想的な作品が展示されるようになりました。

 

あの、ムンク独特の水面に移った月の表現も現れます。

 

この章では多色刷木版画の作品群も展示されており、その作品からは粗削りながらも力強さが感じられます

 

ムンクは同じモティーフやテーマの作品を、画材や色彩を変えて何度も制作することがありました。

版画という表現手法は、簡単に色を変えて作成できる便利な手法だったのかもしれません。

 

4 魂の叫び―不安と絶望

遂に、「叫び」が出てきます。

 

部屋が暗くなっており、「叫び」合わせているの?かと思いきや、作品の貸し出し条件に「室内を暗くすること」とあったからだけだそうです。

 

「叫び」も何パターンも制作された作品で、今回はうち1点が来日していました。

 

最前列は止まらず進むよう声掛けがありましたが、後ろからはじっくりと鑑賞することができました

 

なお、「叫び」の隣には「絶望」という作品も展示していました。

ムンクはこの作品を「最初の『叫び』」と呼んだ、学術上は重要な作品なのですが、結構素通りしている人が多かった印象です。

 

5 接吻、吸血鬼、マドンナ

ここでは有名な「接吻」「吸血鬼」「マドンナ」が展示されています。

これらの作品もまた何パターンもあり、ムンクのこだわりが伝わってきます。

 

面白いと思ったのが「吸血鬼」。

油彩画と多色刷木版画では、男女の位置が左右逆なのです

 

版画は彫りと刷り上がりで左右が反転するため、左右が反対になるのです。

油彩画が版画の下絵になっていると読めるでしょう。

 

6 男と女―愛、嫉妬、別れ

ここでは男女の愛がテーマになっています。

 

愛情から湧き上がる執着、傷心、嫉妬、後悔……

愛が引き起こすあらゆる心情が描かれています

 

このあたりから、画面の明度が上がってきます

 

7 肖像画

1902年の第5回ベルリン分離派展においてムンクの作品は高い評価を受け、ムンクは一躍人気の画家になります

 

肖像画の注文も増え、家計は豊かになったのかもしれませんが、個人的にはあまりピンとくる作品には出会えませんでした。

画家自らから湧き出る衝動ではなく、依頼に対して応じるという消極的な制作だからでしょうか。

 

受注して制作された作品に、画家の純粋な熱情は必要ありません。

注文主の好みに合わせて描くので、本当はもっとこうしたいのに、という思いを抱えながら制作したのかもしれませんね。

 

この頃のムンクはアルコール依存に陥り、妄想や厳格に苦しみ、精神病院に入院したりと不安定な時期でした。

それでも制作活動は続けました。

 

8 躍動する風景

一気に明るい画面になります。

 

白が多用され、力強い明快な空気が放たれています

 

この頃のムンクは、祖国ノルウェーで高い評価を受けるようになっていました。

その影響が出たのでしょうか。

 

祖国に大きな家を建てて永住の決断をし、アルコールも絶ってひたすら制作活動に励みました

 

クリスチャニア大学(現オスロ大学)の壁画「太陽」と同じ画題の油彩画も展示されていたり、疾走する馬が描かれていたりと、躍動感のある作品ばかりです。

 

オスロ大学壁画の「太陽」

 

ムンクというと暗くて陰鬱で狂気に満ちているというイメージがありますが、そればかりではないのだと気づかせてくれるのがここの作品群です。

 

9 画家の晩年

晩年の作品は明るさが目立ちます。

庭のリンゴの樹なんてものもモティーフにして描いてあり、なんだか「普通」な感じすらします。

 

企画展最後の作品は「自画像、時計とベッドの間」

 

 

針の無い時計とベッドは死の象徴です。

時計とベッドの間に立った老人は、死を間近にしているのです。

 

しかし、そこに悲壮感はありません。

死の到来を受け入れるような落ち着きすらあるほどです。

 

この企画展の最後は、ムンクのスケッチブックの言葉でしめられています。

 

我々は誕生の時に、既に死を体験している

これから我々を待ち受けているのは、人生の中で最も奇妙な体験、すなわち死と呼ばれる、新の誕生である

―一体、何に生まれるというのか

 

生から死、死から生への巡り巡る命を見つめた画家が、息を引き取るときに何を思ったかは分かりません。

ですが、数々の作品は残り続け、観る人の心を打ち続けることでしょう。

 

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概要

ムンク展 ―共鳴する魂の叫び

 

会期

2018年10月27日~2019年1月20日

会場

東京都美術館(東京 上野公園 東京都美術館)

開館時間

午前9時30分から17時30分

(金曜日、11月3日は20時まで)

休館日

月曜日(11月26日、12月10,24日、1月14日は開館)と12月31日、1月1,15日

観覧料

1,600円

混雑度

平日の昼頃はそこそこ混雑していますが、入場待ちはありませんでした。

小さな作品だと列に並んで近くで見たいのですが、大きい作品が多かったので2列目でもまあまあ楽しめます。

昼過ぎに、見終わって帰る途中でチケット売り場を観たら、若干待機列ができていました。

 

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ムンクについての知識を深めたい方はこちらがおすすめです。

 

 

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なお、このサイトにもムンクに関する記事がいくつかありますので、ぜひご覧くださいませ。

 

 

 

以上、ムンク展のご紹介でした。

最後までお付き合いいただきありがとうございました♪

 

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