作家

エドヴァルド・ムンク 絶望を描き続けた画家が辿り着いた希望

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エドヴァルド・ムンク(1863~1944年)は、『叫び』などの絵画によってよく知られている画家です。

 

作風は内省的で暗く時に絶望すらストレートに伝えてしまうようなものが有名でしょう。

 

かの有名な『叫び』も、強烈な不安、狂気を見事に表現しています。

 

 

もちろん言うまでもなく、気分を明るくさせる作品のみが素晴らしいわけではありません。

 

ですが、叫び、絶望、病など、暗澹たる作品しかムンクは作らなかったのか、希望につながる絵画は描かなかったのか、ということは気になりませんか?

 

今回、ムンクの描いた作品を改めて見直して、その陰陽に着目しながら画業についてお伝えいたします。

 

 

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死や病の傍らで

 

ムンクは1863年、ノルウェーに生まれます。

 

はじめ、家族は父母の他、姉、弟、妹がいました。

 

しかし不幸にも、母はムンクが5歳の時、姉はムンクが14歳の時に亡くなってしまいます

この悲劇的な出来事は、若きムンクの作風に大きな影響を与えました

 

1885年から1886年にかけて、ムンクは1年を費やして『病める子』という作品を制作します。

 

 

何度も絵の具を乗せては削り、試行錯誤を執拗に繰り返して描いた作品で、力なくうなだれる母親の姿は生々しく悲壮で絶望的な心情が痛切に伝わってきます

 

この時ムンクは22,3歳。

 

一般的には血気盛んな、未来へ向かって力強く歩もうとしている年齢です。

 

青年の描いた絵画らしからぬ闇が感じられるのは、やはり母と姉の死が影響しているためでしょうか。

 

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『叫び』

 

ムンクの名を聞けば『叫び』を思い出すほど有名なこの作品。

 

ムンクは『叫び』を幾枚か描いていますが、最も有名なのがオスロの国立美術館に所蔵されている作品です。

 

 

画面中央下部に、耳をふさぎ目を見開き、狂気に包まれ立ちすくむ人物が印象的に描かれています

 

不安定に曲線的な真っ赤な空と青い川とは対象に、橋はいささかきつい遠近法で直線的に表現されています。

 

色、形、全てから狂気があふれ出ているようで、見る者を圧倒する迫力ある作品に仕上がっています。

 

この『叫び』という作品、画面中央に描かれている人物が叫んでいるようにも見えますし、確かにこの人物も叫んでいるのかもしれません。

 

しかし、どこかから聞こえてくる叫びに対して耳をふさいで立ちすくんでいるのが、ムンクが意図したイメージです。

 

世界が叫ぶ。

そして人物が共鳴し叫ぶ。

世界と人物が互いに呼び合うような狂気が描かれているのが『叫び」なのです。

 

このことは、次にご紹介する『絶望』という作品に添えられた言葉から明らかになります。

 

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『絶望』

 

1892年に描かれた『絶望』

 

ムンクはこれを「最初の『叫び』」と呼びました。

 

 

この作品の元となったデッサンには言葉が添えられています。

 

    ふたりの友人と歩いていた時、太陽が沈んで空が血のように赤くなった。

    私はくたびれ果て立ち止まり、欄干にもたれかかった。

    青く黒みがかったフィヨルドと街の上には血と炎が広がっていた。

    友人たちは歩き続け、私は立ちすくんだ。

    不安に身の毛がよだち、大きな叫び声が無限に響くのを感じた。

 

友人たちは何事もなかったかのように歩き続けているので、世界そのものが変容したわけではありません。

 

描かれているのは、世界そのものが恐ろしいものへと変化したことではなく、ムンク自身が狂気に包まれたことなのです。

 

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破滅に至る愛

 

1893年、ムンクは『愛の連作』と称した6点の作品を発表します。

 

それぞれには『夏の夜:声』『キス』『吸血鬼』『マドンナ』『メランコリー』『叫び』というタイトルがつけられました。

この連作において、愛は『夏の夜:声』で生まれ、『キス』『マドンナ』で絶頂に達し、『吸血鬼』『メランコリー』で苦悩し、そして『叫び』で破滅します。

 

ムンクの中では、燃え上がり絶頂にまで達したような愛ですら、最終的には破滅してしまうのです。

 

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循環する生命

 

ここまでムンクの「陰」を見てきましたが、ここでは「生のフリーズ」という連作を紹介します。

 

フリーズとは、建築用語で「小壁画」を意味します。

 

1902年、ムンクが制作し発表したのがこの「生のフリーズ」

 

命は生まれ、踊り、いずれ死ぬ。

しかし死後には、その躯から命が生まれる。

生命は消えることがない。

消滅することなく循環する生命の姿を描きました。

 

ムンクは日記にこう書き記しています。

 

   何物も消え去ることはない。

   肉体は死ぬが、消滅はしない。

   肉体を形成していた物質は変形するのである。

 

生と死について深く思考し、肉体が消えることなく循環するという思想に辿り着いたのが、この「生のフリーズ」で表現されていると言えるでしょう。

 

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晩年に表現した希望

 

1916年、ムンクは母国ノルウェーのオスロ大学の壁画を完成させます。

 

明るく力強く世界を照らす大きな太陽が中心に据えられた『太陽』。

老人が少年に語りかけ、物語を受け継いでいく『歴史』……

 

壁画を彩った絵画たちは、これまでのムンクらしい陰の作品ではなく、希望を伝える陽の作品でした

 

 

更に、同じく晩年に描いた「労働者のフリーズ」という連作においては、力強く生き、未来を創造する人間の姿が描かれました。

 

 

生きるとはなにか。

表現とは何か。

 

人生を賭して考え続け、一生をかけて描き続けてきたムンクの境地が、晩年のこの陽たる作品群に現れたのではと考えられないでしょうか。

 

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ムンクに関する書籍や記事

 

ムンクに関する画集はたくさんありますが、おすすめはこちらです。

 

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解説が詳しい方がよい方にはこちらがおすすめです。

 

 

図版と解説のバランスがよく、初心者でも分かりやすい良書です。

 

このサイトには、ムンクを語るのに欠かせない「版表現」に関する記事があります。

気になる方はぜひご覧くださいませ。

 

ムンク展(東京都美術館)

 

2018年10月27日より上野の東京都美術館でムンク展が開かれています。

 

「叫び」を前面に押してPRしていますが、初期の暗い作品から晩年の明るい作品まで、バランスよく展示されています

ムンクが多用した「版表現」もたくさんあります。

 

とてもおすすめできる企画展でしたので、もし興味が湧いたのでしたらぜひ訪れてみてくださいね。

ムンク展のレビュー記事はこちらです。

行こうか迷っている方はこちらの記事の方が手っ取り早いかもしれません。

 

以上、ムンクの画業について、陰と陽をテーマとしてご紹介しました。

最後までお付き合いいただきありがとうございました♪

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